もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
茨木のり子「倚りかからず」への共感 小熊ひと美

詩集『倚りかからず』は1999年の出版となっている。私は出版されてから間もなく、新宿の紀伊国屋書店で手にしている。
そのころの私は、大げさに言えば人生に行き詰まっていた。離婚をして数年、二人の子どもを抱え、時には最終電車の帰宅が続くような激務。加えて、小さな印刷会社にも技術革新の波が襲い、若い社員に追いついていくのに精いっぱい。
仕事も、家事も育児も、自分の目からはどれも中途半端。責任感と忙しさに追い詰められ、身動きのできない息苦しさを感じていた。
たまたま早く退社したある日、立ち寄った紀伊国屋書店の詩のコーナーで、久しぶりに好きだった茨木のり子の、この新しい詩集をみつけた。
タイトルになっている詩、「倚りかからず」。
できあいの思想や学問や権威には倚りかかるな、自分の感性を信じて生きていけ。茨木のり子はそう言っている。自身もそうやって生きてきたのだろう。
じぶんの二本足のみで立っていて なに不都合のことやある
この言葉に救われた気がした。迷いながら意地を張って生きている自分への共感の言葉と受け取った。
(おぐま・ひとみ 西東京市南町在住)
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